過払い金|借入債権と求償権の時効に関する裁判所の見解

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主文

原判決中、別紙請求目録記載の被上告人の各請求に係る部分(五九四万八五二六円及びうち五八三万九九〇四円に対する昭和五七年九月二三日から支払済みまで年一四・六パーセントの割合による金員を超えて被上告人の本件各請求を認容した部分)を破棄する。
前項の部分につき被上告人の控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。

理由

上告代理人今泉純一、同吉岡一彦、同福原哲晃の上告理由第一点について一 被上告人の本訴各請求のうち上告人が上告の対象とした部分について、原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
1 被上告人は、訴外株式会社D(以下「訴外会社」という。)との間で、別紙請求目録(一)ないし(三)記載の各保証委託契約締結日に、訴外会社の訴外E信用金庫(以下「訴外金庫」という。)からの同目録(一)ないし(三)記載の各借入債務(以下、訴外会社の右各借入債務を「本件各借入債務」といい、個別には、同目録(一)記載の借入債務を「本件借入債務(一)」といい、同目録(二)及び(三)記載の各借入債務についてもその例による。)について被上告人が保証をし、被上告人が本件各借入債務を代位弁済したときは訴外会社が代位弁済金及びこれに対する代位弁済日の翌日から支払済みまで年一四・六パーセントの割合による損害金を支払うことなどを内容とする各保証委託契約(以下「本件各保証委託契約」という。)を締結した。
2 訴外会社は、訴外金庫から、別紙請求目録(一)ないし(三)記載のとおり、各借入れをした。
3 上告人は、本件各保証委託契約締結日に、被上告人に対し、本件各保証委託契約に基づく訴外会社の被上告人に対する各求償債務について連帯保証することを約した。
4 訴外会社は、昭和五七年七月六日、本件各借入債務について期限の利益を喪失した。
5 被上告人は、昭和五七年九月二二日、本件各保証委託契約に基づき、訴外金庫に対し、本件借入債務(一)につき八三五万八五六六円、本件借入債務(二)につき三〇七一万七五三四円、本件借入債務(三)につき一三九二万五二八二円、以上合計五三〇〇万一三八二円を代位弁済して、訴外会社に対する同額の各求償権を取得した(以下、右の各求償権を「本件各求償権」といい、個別には「本件求償権(一)」などという。)。
6 その後、本件求償権(一)に対し一一万一〇〇〇円、本件求償権(二)に対し一四四六万二〇〇〇円、本件求償権(三)に対し六七二万九七五〇円の一部弁済がされた。
なお、訴外会社が被上告人に対して本件各求償権に対する最後の支払をしたのは、昭和五七年一〇月一二日であった。
7 本件各求償権は、昭和五七年一〇月一二日から五年を経過することにより時効消滅するものである。
しかしながら、本件各求償権については、次の事情がある。
(一) 上告人及び訴外Fは、昭和五三年五月二五日、訴外金庫との間で、右両名所有の原判決添付物件目録記載の土地及び建物(以下「本件不動産」という。)について、債権の範囲を訴外会社と訴外金庫との間の信用金庫取引による債権とし、極度額を三六〇〇万円とする根抵当権(以下「本件根抵当権」という。)設定契約を締結し、同日、その旨の根抵当権設定登記を経た。
したがって、本件根抵当権は、右極度額の範囲内で訴外会社の訴外金庫に対する本件各借入債務を担保するものである。
(二) 上告人及び訴外Fは、昭和五六年一一月一八日、訴外金庫との間で、訴外会社の訴外金庫に対する本件借入債務(三)の担保とするため、本件不動産について抵当権(以下「本件抵当権」という。)設定契約を締結し、同日、その旨の抵当権設定登記を経た。
(三) 本件不動産に抵当権を設定していた訴外G火災海上保険株式会社外五名の債権者は、昭和五七年九月三日、本件不動産の競売(以下「本件競売」という。)を申し立て、同月六日に競売開始決定がされた。
そして、右開始決定の正本が、同年一〇月六日、公示送達の方法によって上告人(なお、上告人は、その当時、訴外会社の代表取締役であった。)及び訴外Fに送達された。
(四) 被上告人は、代位弁済により、訴外金庫が訴外会社に対して有していた本件各借入債務に対応する各貸金債権(以下、右の各貸金債権を「本件各貸金債権」といい、個別には、本件借入債務(一)に対応する貸金債権を「本件貸金債権(一)」といい、本件借入債務(二)及び(三)に対応する貸金債権についてもその例による。)、本件根抵当権及び本件抵当権を取得した。
(五) 被上告人は、昭和六三年五月七日、本件競売の執行裁判所に対し、本件根抵当権の被担保債権として本件貸金債権(一)及び(二)を(本件求償権(一)及び(二)と表示して)、本件抵当権の被担保債権として本件貸金債権(三)を(本件求償権(三)と表示して)、それぞれ届け出た。
(六) 被上告人は、昭和六三年五月一八日、本件競売手続の配当期日において、本件貸金債権(二)に対し、一二一五万九一一七円の配当(以下「本件配当」という。)を受けた。
二 原審は、右事実関係の下において、次のとおり判断して、別紙請求目録記載の被上告人の各請求(以下「本件各請求」という。)をすべて認容した。
1 本件各求償権については、次のとおり、昭和五七年一〇月一二日から同六三年五月一八日までの間、消滅時効中断の効力が継続していた。
(一) 執行裁判所による配当は、執行裁判所が債権者の具体的債権額を確定させ、これに基づいて売却代金を債権者に分配し、債権の満足を得させる手続であるから、債権者が配当を受けたことは、執行裁判所が債権者の被担保債権の存在を公にするものとして、民法一四七条二号所定の「差押」に準ずる消滅時効中断の効力を有するものということができる。
また、債権者が配当を受けたことによる右の消滅時効中断の効力は、執行裁判所が配当の対象とした債権の存在を公認したことに基づいて生ずるものであるから、現実の配当がどの債権に対してされたかは問うところではなく、配当の対象とされた届出に係る債権の全部について、その存在が公認されたものとして消滅時効中断の効力が生ずるものと解すべきである。
(二) そうすると、被上告人が本件貸金債権(二)に対する本件配当を受けたことにより、本件競売手続において配当の対象とされた被上告人の届出に係る本件各貸金債権全部の存在とその具体的債権額が確定され、本件各貸金債権について民法一四七条二号所定の「差押」に準ずる消滅時効中断の効力が生じたものということができる。
(三) そして、本件各貸金債権及び本件各求償権については、本件競売の申立ての後で、訴外会社が被上告人に対して本件各求償権について最後の支払をした日である昭和五七年一〇月一二日から本件配当が実施された同六三年五月一八日までの間、消滅時効中断の効力が継続していたとみるべきである。
2 右によれば、被上告人は、本件各保証委託契約に基づく訴外会社の求償債務についての連帯保証人である上告人に対し、本件各請求をする権利を有する。
三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。
その理由は、次のとおりである。
1(一) 担保権の実行としての競売は、被担保債権についての強力な権利実行手段であり、担保権者が自ら競売を申し立てた場合には、競売開始決定が債務者に送達され、その権利主張が債務者に到達することが予定されているから、被担保債権について消滅時効中断の効力を生ずるものと解される。
(二) しかしながら、第三者の申立てに係る競売手続において債権届出の催告を受けた抵当権者がする債権の届出は、執行裁判所に対して不動産の権利関係又は売却の可否に関する資料を提供することを目的とするものであって、届出に係る債権の確定を求めるものではなく、登記を経た抵当権者は、債権の届出をしない場合にも、右の競売手続において配当を受けるべき債権者として処遇され、不動産の売却代金から配当を受けることができるものであり、また、債権の届出については、債務者に対してその旨を通知をすることも予定されていないことなどに照らせば、債権の届出は、その届出に係る債権に関する裁判上の請求、破産手続参加又はこれらに準ずる消滅時効の中断事由に該当するものとはいえない(最高裁平成元年(オ)第六五三号同年一〇月一三日第二小法廷判決・民集四三巻九号九八五頁参照)。
(三) 執行裁判所による配当表の作成及びこれに基づく配当の実施の手続においても、右の届出に係る債権の存否及びその額の確定のための手続は予定されておらず、抵当権者が届出に係る債権の一部について配当を受けたとしても、そのことにより、右債権の全部の存在が確定するものでも公に認められるものでもない。
(四) また、配当期日には債務者を呼び出さなければならないが、右呼出しは執行裁判所が債務者に配当異議の申出をする機会を与えるためのものにすぎないから、これをもって抵当権者が債務者に向けて権利を主張して債務の履行を求めたものということはできない。
(五) そうすると、登記を経た抵当権者が、第三者の申立てに係る不動産に対する担保権の実行としての競売手続において、債権の届出をし、その届出に係る債権の一部に対する配当を受けたとしても、右配当を受けたことは、右債権の残部について、差押えその他の消滅時効の中断事由に該当せず、また、これに準ずる消滅時効中断の効力を有するものではないと解するのが相当である。
2 これを本件についてみるに、前記一の事実関係によれば、被上告人は、本件競売手続において、本件各求償権を表示して本件各貸金債権の届出をし、本件貸金債権(二)の一部に対する本件配当を受けたにとどまるものであるから、右債権の届出をして本件配当を受けたことによっては、本件各貸金債権及び本件各求償権について、消滅時効中断の効力が生ずることはないというべきである。
まして、本件においては、被上告人が債権の届出をし、かつ、配当を受けたのは、いずれも消滅時効期間経過後であり、時効中断の問題の生ずる余地は全くない。
3 これと異なる見解に立って、本件配当を受けたことにより本件各貸金債権及び本件各求償権について消滅時効中断の効力が生じたものとした原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。
この趣旨をいう論旨は理由があり、その余の上告理由について判断するまでもなく、原判決中、本件各請求に係る部分(五九四万八五二六円及びうち五八三万九九〇四円に対する昭和五七年九月二三日から支払済みまで年一四・六パーセントの割合による金員を超えて被上告人の本件各請求を認容した部分)は破棄を免れない。
そして、前記一の事実関係によれば、本件各求償権はいずれも時効により消滅しており、被上告人の本件各請求は理由のないことが明らかである。
したがって、右に説示したところと結論を同じくする第一審判決は正当であって、本件各請求に関する被上告人の控訴は理由がなく、これを棄却すべきものである。
よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

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